9、インドネシアのしみ

私は23歳の時、4つ下のみきちゃんという娘に恋をした。

当時、大学を卒業して何をするでもなくぶらぶらしていて、職もなく金もなく常日頃から友人に彼女が欲しい彼女が欲しいと気持ち悪く漏らす、そんな日々が続いていた。
山ちゃんはそんな私を見かねて、山ちゃんと山ちゃんの彼女と私とみきちゃんの4人で遊べる花火パーティーを開催してくれたのだ。4人で蓮沼の砂浜で花火をするのである。

真夏の夜の砂浜で4人の若人が集まり、持ち寄った花火でもって戯れるのである。
くそー!たまんねえな!
今そのような集団を見かけたら、ありったけの糞尿を撒き散らしてやりたい。できるだけ下品にかつ無様に徹底的にぶち壊してやりたい。
でもその頃の私は全身全霊で青春を謳歌した。頭の先からつま先まで女の子との花火を楽しんだ。

散々ぱら遊び尽くし一同皆帰る段になって、みきちゃんは私に近づき「なにか独特のオーラがありますね」と言ってきた。
ぬおー!恋の予感!?それとも早くも私のワキガに気づいてしまったか?
私は興奮を隠し、さりげなく携帯の番号を聞いた。

後日みきちゃんに電話して2人きりで映画を観に行く約束を取り付け、ほどなくして当日が来た。
私は緊張のあまり5時間しか眠れなかった。
嫌な予感がした。空調の良い映画館、薄暗くて座り心地の良い座席。寝ない訳が無い。
いくら意中の女の子と一緒だからってこれだけの好条件が揃ってしまえば寝てしまう。
というわけで私は2時間の上映中ほぼ全編みきちゃんを放ったらかして眠りに寝た。よだれまで垂らした、ちなみに。

その後、映画を観終わった私達は(私は観てないが)近くの喫茶店でコーヒーでも飲むことにした。
みきちゃんは半ば呆きれ、私の顔もまともに見てくれない。
私の着てたシャツにはよだれの跡がくっきり残り「このしみ、インドネシアみたいじゃない?」と冗談をかましたが無残にも空転した。

もちろんこの恋は実らなかった。その後のみきちゃんの様子は山ちゃんの耳には入って来てたであろうが、山ちゃんは上手いことシャットダウンし私を凹ませることはしなかった。

山口冬の時代はまだまだ続く。