16、不良ボケ

父方の祖父が病に臥したのは今から20年くらい前だろうか。祖父が確か76歳の頃だったと思う。

本格的に病床に就くようになると本格的にボケ始めた。下の世話も必要になったため母が介護に駆り出される日も多くなっていった。
祖父は長男宅で介護されており、次男の嫁である私の母も介護に加わったわけである。

祖父のボケは全く迷惑な不良ボケであった。
介護している長男の嫁、次男の嫁の両者の尻を「よーし!」と威勢よく声を出しながらペロリと触ったりした。年増の女の尻を触って何が嬉しいのか分からぬが、このような凶行は毎日のように重ねられていった。

また尿瓶(しびん)に尿を足していたのだが、とある日には尿瓶と形状が似ている急須にしょんべんを施した。その急須は祖父用だったため被害を受けるのは祖父だけだったのだが、ボケの世界は奥深く、急須に用を足した後の祖父はシタリ顔で「よーし!」とまたもや威勢よく啖呵を切っていた。

そんな祖父も病状がおおいに悪くなり病院に担ぎ込まれるというXデーまもなくという日がいよいよ来た。
いよいよだったので孫である私も駆け付けた。
その日は急に内臓近辺が痛くて運ばれたので看護婦に「山口さん!山口さん!どこ痛いのっ!?」と問われたのだが祖父ときたら「こうもん、肛門」とボケてみせた。これには私は笑いが堪え切れず病室をすぐさま出てケラケラと笑ってしまった。

その後どのように祖父が死を迎えたか、非常に失礼だが忘れてしまった。
しかし祖父は最後の最後まで笑いを与えることを忘れなかった。

私もかくありたい。