3、塾講師のアルバイト試験

塾講師のアルバイトは大学生がするもので、いい大人が年甲斐もなくやるものではないと思う。

それなのに私は31の時、成田にあるとある個別塾の講師募集の採用チラシに飛びついてしまった。

当時やることもなく家の中でぶらぶらしていた私にとって塾講師のアルバイトは魅力的だったのだ。
そもそも家の外で働くこと自体がニートの私には刺激的だし、いい加減ニートはどうかと思っている最中ということもあった。
とりあえず応募の広告に申し込みの電話を入れた。
間の抜けたおっさんの声だ。
「あなた学生さん?」
「いいえ31の社会人です」
「あ、そう。では面接とテストがあるので今月の23日に筆記用具と履歴書持って本社に来てください」
まあ間の抜けた声でしっかりしたことよく言うよと思いながら電話を切った。
テストがあるということなので書店に赴き中学生向けの問題集を購入して早速勉強した。
だいぶブランクがあったので大変だったがほうほうの体で切り抜け面接試験当日を迎えた。

試験会場の本社に行くと15人くらいの若人の集団が席にちょこんと座っていて、見ると皆大学生くらいでいい歳したのは私だけであった。
こっぱずかしかった。
ちょうど私の席から見て桂馬の位置にいる大学生と隣の大学生がニヤニヤしながらなんか話している。
ああ俺のこと言ってるんだな。俺がかっこいいからひがんでいるんだなと統合失調症特有の被害妄想に襲われながら筆記用具の用意をした。
そんな病的な一面を垣間見せているうちに試験官が現れ、色々と説明した後試験が行われ始めた。私はなんだかうんこがしたくなってしまった。

すいませんうんこしてきていいですか?とも言えずフガフガしていたのだが、ついにうんこはピークに達し肛門の外に迫る勢いとなった。事ここに至ってはどうしようもなく私は腹を決め(うんこだけに)、こんな小ボケはどうでもよく試験官に排便の意思を暗に告げてそそくさとトイレへと駆け込んだ。

このことは誰に言っても信じてもらえないのだがその時の脱糞の快感は今までに体験したこともない素晴らしいものであった。桂馬の位置にいたあの学生にも伝えたい程であった。
そんな快感が助けてくれたのか分からないが、席に戻って解き直したテストは完璧な出来栄えで受かる事を確信し、その後の個別面接もそつなくこなし悠々と自宅への帰路につくことになる。

後日、採用不採用の通知の電話が来た。
結果不採用。
なんでやねーん。やっぱり歳のせい?
あのうんこを思い出した。それはまさに一本糞と呼ぶにふさわしい代物であった。
試合には負けたけど勝負には勝ったような気もする。